今回は、障害福祉サービスの将来について考えていきます!そして、今からできることを導き出していきたいと思います。
はじめに
本記事では、障害福祉の分野で、直接処遇と言われる現場職員として丸16年働いた私の経験から、『障害福祉サービスの将来について』感じたところを書いていくものです。
現在働いていながらも、漠然とした不安を持つ方もいらっしゃると思います。『これから先、この業界はどうなってしまうのか?』そして、『自分はどうしたら生き残れるのか?』そんな側面から、考えていきたいと思います。
記事としては、①障害福祉分野の今後の動向、そして②そのために今からできること、この二つを軸に考えていきます。
障害福祉サービスの今後の動向
この10数年で、障害福祉の分野は大きく変わってきました。法律も大きく変わり、現場としてはその都度対応に追われていたように感じます。何よりも一番の変化は、措置制度から契約制度になり、『障害福祉サービス』として、施設やサービスが体系化したことです。
このことにより、様々な会社(法人)がサービスの提供主体として乗り込んできました。そして、事業所の数も増え、それぞれがサービスを充実させ、利用者の確保に必死になるようになってきました。
それにより、他の事業所以上のサービスを提供しないと利用者が確保できないという動きもあり、現場で働く職員には負担を強いている一面も正直否めません。
そして、まだまだサービス提供事業所数は少ない地域もありますが、一部の地域や一部のサービスは提供過多になっている現実もあります。
このような背景や状態から鑑みると、措置から契約になり、サービスが体系化されてからまだ10数年、現状のサービスがすぐには変わらないとは思いますが、細かいところで現場に影響のある変化の可能性があると言うことができます。
しかし、その変化は法律の変化によりところが大きく、それが利用者の動きに影響を与えると考えられます。つまり、先読みする力を付けていかないといけないということです。
私は、今後は以下のような変化があると予想しています。
①利用者に対する給付の減少
・現在利用者に支給されている受給者証に記載の支給量は、総合的に見ると減少してくると思います。実際、平成15年から今までを見ても、それは(地域差はあるものの)減少傾向にあります。
しかし、18歳以上の障害者が日中に通う施設に対する給付、またはグループホームに入るための給付、そして在宅支援をするサービスは減らないでしょう。生活の根幹を支える部分では、減らしようがないのが事実です。
それでは、減る部分はどこかというと、障害児童に対する児童通所、具体的に言うと放課後等デイサービスの給付や、余暇活動として行われる移動支援などです。私の近隣地域だけ見ても、この2つの給付は年々厳しくなってきています。
私の所感ですが、『絞ることができるところは絞って、必要なところ、または必要な時期にちゃんと給付をしよう』という意図を感じます。もちろん、お金の出どころも異なるので、地方自治体の財源として関係がある部分です。
②利用者負担の上限引き上げ
介護保険でも見直しがされ今に至りますが、『障害福祉サービス』も利用者負担に関しては紆余曲折しています。ご存じのとおり、利用者負担はサービス利用費の原則一割負担ではあるものの、一割の上限が決まっていて、現状では応益負担(一割負担)でありながらも、結果的に応能負担(扶養者や本人の所得により負担が決まる)の原理が用いられているものです。
そして、サービスの給付費は年々増大しています。福祉サービス費全体の予算から見ると、平成24年から30年までで1.6倍、総額は13,810億円にもなっています。細かく見ると、障害児のサービスに係るものが増加傾向となっています。
このことから、利用者負担が、現状より増加するのではないかと予想します。特に、障害児に関するサービスの自己負担金(一割相当)は、上限が引き上げられるのではないでしょうか。
この、①利用者に対する給付の減少と②利用者負担の上限引き上げは、増大するサービス給付費を抑える働きがあります。もし、それらが実際ものになったら…?次のセンテンスで、『今からできること』を見ていきたいと思います。
これからのために、今からできること
例えば、放課後等デイサービスであったら、多くのご家庭の負担は月に4,600円です。ざっくり計算して、月に23日放課後等デイサービスに通った場合、サービスに係る総額は多くて25万円です。それの一割は、25,000円となります。現状では、それが4,600円となっています。
さて、仮に今後上限が引き上げられたとして、一割負担として月に25,000円払うとしたら、ご家族・本人にとって使いたいサービスとなるでしょうか?
私は、ノーだと思っています。厳しいようですが、例えば放課後等デイサービスであったら、現状は『この負担金で使うことができるから』という理由で使う方が多いと思われるのです。つまり、『負担が引き上げられたら、使わなくなる可能性がある』という層をどう利用に結び付けていくか、ということが大事になってきます。
さらに、サービスの支給量(〇〇日)が減ることも考えられるので、本人、家族の事業所選びはシビアになってくると思います。
貴重な支給量で、なおかつ負担が今よりかかるとしたら、より納得のいくサービスを提供してくれる事業所を選ぶ気持ちが芽生えるのは当然です。
これに関しては、『サービスを過剰なものにして、利用者離れを防ごう』という視点ですと、職員が疲弊してしまします。『この場所ならではの経験ができる』という付加価値のある事業所、そして職員のいるところが、最終的には選ばれる事業所になると思います。
一つ、例え話をしたいと思います。
福祉サービスの提供を『みそ汁』に例えると、『普通のみそ汁だけど、提供スピードが速い』という事業所は魅力的ではありません。『提供スピード』を競っても、それは福祉サービスにおいてはサービスの質の向上ではないからです。主に、一部の利用者の要求に応じて、サービスの提供を柔軟に変化させている事業所が陥りやすい罠です。
一方、『じっくり出汁を取った美味しいみそ汁』を提供する事業所はどうでしょうか?これは、利用者が喜びそうですし、選ばれる事業所になりそうな予感がします。しかし、その背景に職員の過剰な負担(出汁を取るための材料調達、絶妙な火加減、微妙なみその配分)があったらどうでしょうか?そうなると、一気に継続が難しくなってきます。
これは、どちらも過剰なサービスだと思います。なぜかというと、一時的にはファンを獲得できるかもしれませんが、継続性がないからです。そして、ここが障害福祉業の面白いところです。それでは、どうすれば利用者を獲得できるのか。魅力ある事業所とは、どんな事業所なのか。
答えは数多くあると思いますが、ここではみなさんの想像力を邪魔しない程度に書いておきます。
みそ汁で例えれば、めっちゃ詳しい『みそ博士』の話が聞ける事業所があったら楽しそうですよね。そして、一からみそを作る事業所があったら、それも魅力的な要素でしょう。仮に、味的には少し落ちても、作る過程を体験できるという部分で付加価値は十分です。
みそ汁に、ワンタンを入れて食べる…それもまた良しです。ワンタンをみんなで作ったら、盛り上がりそうです。
視点は、主役である『みそ汁』を、どうしたら引き立てられるか。どうしたら、もっと五感で美味しさを感じることができるか。利用者も職員も巻き込んで、『それ』に向かうことのできる熱量。
以上、福祉サービスをみそ汁に例えてみましたが、必要なことは想像力です。それも、突飛なことをやるのではなく、『当たり前の事』に、過剰な負担なく『色を添えられるサービス』を考えていきたいところです。無理してサービス提供をしようと思えば、いくらでもできるのが現実です。そこから脱却し、一定のクオリティで継続できるサービス提供方法を、これからは考えたいですね。
|
一個人として今からできること
職員一個人で、できることもあります。それは、人脈作りとスキルアップです。人脈作りに関しては、他の事業所との連携や、役所、学校などとの連携。利用者の家族との良好な関係も立派な人脈作りです。築き上げた人脈は、いつか助けになるでしょう。
もう一つは、スキルアップです。これは、単純に支援技術の向上や、資格取得、その他社会人としての力量です。支援技術の向上に関しては、日々の実践から学びを得ること、そして研修に参加してそれを自分の蓄えにすること、そしてそれを利用者支援の実践として体現(いわゆるアウトプット)することです。
要は、特色のある一個人を目指したいということです。『あそこに行ったら、○○さんがいる』そんな事業所なら、自然と人が集まってきそうですね。特に、福祉に関して詳しい人や、相談するとホッとする人、子どもの立場で考えてくれる人など、利用者目線でも、親目線でも嬉しいはずです。
選ばれる事業所になることはもちろん、同時に選ばれる一個人にもならなければなりません。先に述べたように、障害福祉業界もだんだん厳しくなってくるでしょう。なんとなく漫然と続けている…そんな事業所や職員は、淘汰されていくと思います。
『サービスを提供してくれたら、ある程度は誰でもいい、どこでもいい』から、『○○さんがいる、○○にいきたい』
そんなことが当たり前になる、障害福祉の世界を作り上げたいです。
この記事のまとめ
本記事を振り返っていきます!
・『障害福祉サービスは、これからどうなるのか?』
→現行の制度になって、まだ醸成していない状態です。これからも、法律の変更に伴って、いろいろな変化があると思います。それに、柔軟に対応していくことと、先を読む力が必要だと思います。
・『具体的には、どんな変化が考えられる?』
→あくまで予想ですが、一部のサービスの負担上限額の引き上げと、給付(サービス支給量)の減少があると予想します。
・『その変化によって、起こり得ることは?』
→利用者・保護者は、サービスを選ぶ視点がシビアになると思います。
・『どうしたら、生き残る事業所になれるのか?』
→選ばれる事業所になるため、サービスの見直しやテコ入れが必要ですが、それは過剰なサービス提供を求めるものではないと思います。『ここにいきたい、この人に会いたい!』を引き出すための工夫を、今から考えていきたいところです。
この辺りは、地域差が多分に関係してくる部分だと思います。サービスを提供している地域の実情や、今その事業所・施設で負担なく取り組めること、そして『利用者の真のニーズ(大変さや、苦労の中に隠された、本当に必要としていること)』を読み取る力を持つ事業所・職員が残っていくと思います。
もう一つ上の段階へ!制度の醸成に伴っての変化に、付いていきたいと思います!