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利用者の他害について事例から考える【障害福祉・療育・放デイなど】

はじめに

 18歳未満は児童発達支援や放課後等デイサービス、18歳以降は生活介護など通所系施設、または移動支援などのサービス提供の中で、他害について考えることがあると思います。

 『他害』については、その言葉の印象がいいものではなく、個人的にはあまり馴染みませんが、本記事では分かりやすさとイメージしやすい言葉と言うことで便宜上用います。

 今回用いる『他害』という言葉の意味としては、他者のことを叩いてしまう噛んでしまう、または不快な言葉をぶつけてしまうなど、他者のことを傷つけてしまうというニュアンスとして用いています。対象は利用者同士の場合もありますが、職員に対して他害行為がある場合もあるでしょう。

 反対に、職員が利用者を傷つけてしまった場合は『虐待』となります。

他害とは、それを行ってしまった利用者本人が一方的に悪いというより、その行為自体不適切であることを本人にきちんと伝える対応をしながら、環境を調整しながらその行為自体を減らしていくことを支援目標とします。

これは、他害行為に対する支援に当たっての大前提とも言うべき事柄です。

 また、その他害行為は、本人が意図していなくて(故意に傷つけようと思っていない場合)も、相手があってのことなので、両者の気持ちを考えていくことが必要だと思います。それでは、事例を見てみましょう。

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事例

・特別支援学校に通う高校生、男子。

・月~金まで、複数の放課後等デイサービスを利用。

・利用当初はなかったが、職員や利用者に対して、強く髪の毛を引っ張ってしまう他害行為が見られる。

・本人の理解力は高いとは言えず、発語もないため、意思の疎通は困難である。

・このところ職員に対して髪の毛を引っ張る他害行為がさらに目立ち、職員の間でも困り感が出てきたため、学校、保護者、サービス提供事業者で担当者会議が開かれることになった。

さて、考えていきましょう!

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他害行為を考えるポイントについて

①他害行為の前後の本人の様子と周りの状況に注目する
(行為の理由を考えてみる)

②その上で、より好ましい行動を考える

③本人に関わる人たちで対応を共有、統一した支援とする


 考えるポイントとして、『他害行為の理由が一見理由が見当たらない』という場合であっても、可能な限り考えられる仮説を立てて、一つずつ他害行為に至る理由を探し出したいと思います。

 これに関しては、日々の記録や職員との共有が非常に大切になります。どんなきっかけでその行為が導かれてしまったのか、考えていかなければなりません。

 そうでないと、本人の他害行為のみに着目し、それを矯正して、ただ単に他害行為をなくす方向の支援になりがちだからです。それを行ってしまいますと、極端な話、隔離や身体拘束にもつながってしまいます。それでは、支援とは言えないと私は思います。


 そして、その状況に陥ってしまうと、その事業所で行われている支援は、『いかにしてその本人に他害行為を起こさせないかどうか』に着目するだけのものになってしまいます。

 よく、『突発的』『衝動的』という表現も用いられますが、どこかにその行為に至るきっかけがあるはずなのです。どんなに障害が重たかったとしても、本人がその行動を起こす理由、原因を探すこと、そしてそれを知って、環境を調節することが支援の醍醐味だと思います。

 もちろん、他害行為自体を認めていくことは、社会で生活するにあたって不都合ばかりになってしまいます。いけないことはいけないと伝えると同時に、『どのようにすればいいのか』提示することが必要です。それでは、詳しく状況を見ていきましょう。

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事例検討~その状況を知る~

上記で挙げたポイントに従って、見ていきます。

①他害行為の前後の本人の様子と周りの状況に注目する

 これに関して、担当者会議で各場所の本人の様子を確認しました。すると、髪の毛を引っ張る他害行為に関して、多く起こり得る時間帯があることがわかりました。

 その時間帯とは、登校、またはサービス利用後すぐに時間帯と、帰宅前の時間帯でした。次に、その時間帯に何が起こっているかを確認すると、どの場所であっても忙しく、バタバタした時間であることがわかりました。

 そして、他害行為自体は髪の毛を引っ張り続けるものではなく、目と目が合い、一声かけるとパッと手を離すことを確認できました

 このことから、二つの仮説を導き出しました。

 一つは、周りが慌ただしいことで、不安定な気持ちを訴えていること。もう一つは、自分に注目してほしいという訴えが、髪の毛を引っ張るという行為に結びついてしまったこと。後者に関しては、髪の毛を引っ張ることで、結果的に自分の要求が満たされていると考えられます。

 この時点では、どちらの理由であったとしても、髪を引っ張るという行為は変わりがないため、髪を引っ張るという行為以外で、本人が他者に訴えかける方法を考えていこうということになりました。

 同時に、バタバタした時間への不安感の軽減も図るため、職員の動きや声のトーン、そして本人へのスケジュール伝達もより丁寧にすることとしました。

②その上で、より好ましい行動を考える

 髪の毛を引っ張っぱらずに、本人が他者に対して呼びかける方法…ここでは、本人の特性に合わせて、『肩をトントンする』ということにしました。

 髪を引っ張る行為が見られたら、本人の手を取って、肩をトントンするように促すのです。もちろん、髪を引っ張られた職員は、本人に対して共通の言葉で『やめてほしい旨』を伝えるようにしました。

 この場合は、共通の対応をすることで、人的な環境を整えたということになります。

 ここでは個人の特定を避けるため詳しい言及は避けますが、本人の特性に合わせた「より好ましい行動」というところがポイントです。ここは、関係者でよく協議していきたいところです。

 また、声を添える際には、言葉の理解の段階にもよりますが、一字一句同じ言葉で声をかけた方が効果的だと私は考えます。

例えば…

①おはよう
②おっはー
③おはよっす

私たちは、上記の3つが「朝の挨拶を指すもの」として認識できますが、言葉が違うのにもかかわらず、その意味は同じであるということを認識することは、実は難しいことなのです。

この場合であれば、「朝の挨拶は①おはように統一する」とした方が、利用者本人には結びつきがしやすいということです。

③本人に関わる人たちで対応を共有、統一した支援とする

 この他害への支援方法に関しては、相談支援専門員が手順書を作り、学校、家庭、各事業所で共通としました。まず、この対応を続けてみて、そのあと本人の様子がどう変化するか見ていこうということで担当者会議は終わりました。

 同時に、髪を引っ張って職員を呼び止める理由に関しても、可能な限り把握してみようという話になりました。

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事例~その後の様子について~

 本人に関わる人たちで共通の対応を続けて数カ月、本人が髪の毛を引っ張ることはなくなり、その代り『肩をトントン』して職員を呼びことができるようになりました。

 他害行為の減少として、それは成功したように思いましたが、新たな問題が出てきました。

 それは、いつどんなときでも、どんな場所でも『肩をトントン』する行為が出現することになってしまったのです。それは、『肩をトントンする』と周りの職員が良い評価をするため、その行動が強化されてしまったと解釈できます。

 反省として、支援の導入時に『肩をトントンできたこと』の評価をどの程度にするか、考えていなかったことが挙げられます。

 そして、次の会議時にはそのことを話し合いました。結論から言うと、『肩をトントン』することは継続しつつ、その行為が過剰にならないように適度にクッションを挟む(肩をトントンの前に、別の活動を提示するなど)こととしました。

 併せて、当初仮説として出てきた『注目されたい』という気持ちもあるのではないかと意見が再び挙がり、学校、家庭を中心に、本人への関わり方を見直すことも課題として出てきました。

 特に、家庭では慌ただしく、本人との時間がほとんどないこともわかりました。サービス利用に関しても調整し、家庭でも十分な時間を過ごすことで、言いに風向きになってきました。

 事例としては、ここまでとします。

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まとめ

 利用者による他害行為の事例から、対応やその後について考えてみました。

 なぜその行為が起こるのか、その背景を探ることは非常に大事だと思います。

 それは、本人の前後の様子からわかることと、もっと本人の奥底にある気持ちの関係で、結果として他害行為として表出してしまっていると考えられます。

 相手がある以上、ハード面、ソフト面でどのようにして防ぐかという視点ももちつつ、行為を紐解いていくこと、その過程が支援の道筋になるでしょう

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