はじめに
今回は、障害福祉サービスにおける施設支援の現場で、利用者のニーズ(訴え・要望)に対してどのように対応するのが望ましいのか、その考え方を、例を挙げながら考えていきます。
想定としては、知的・発達に障害を持つ方が通う日中通所施設である生活介護や就労系施設となります。放課後等デイサービスなどの児童通所でも、当てはまるかもしれません。
結論として、ある意味では正解がない部分であり、個々の現場に委ねられる部分が大きいとは思いますが、立ち止まって考えるきっかけの一つになれば…と思います。
利用者が抱えているニーズをどう受け止めるか
日々の支援をしていると、利用者から様々な要望が出てきます。現場職員としては、そのすべてに対応するのは困難だと判断して、その現場で可能な範囲で取り入れられるもの、そして他の利用者から同様の要望があった場合にも対応できるかどうか、この二つが基準となるでしょう。
職員としては、利用者の要望には可能な限り対応したいと思うはずです。しかし、例えば利用者から『誰かを傷つけたい』という要望があった場合、それは支援することができないと考えるのは自然なこととなるかと思います。
これは極端な例ですが、我々は利用者からの要望に関して、無意識に選別して対応していることがわかります。
ここで私は、まずは選別や判断をせず、その要望そのものより、要望の裏にある気持ちを受け止めていきたいと考えます。つまり、どんな要望であっても選別して判断するのではなく、一旦はその気持ちを知るべきだと考えているということです。
要するに、その要望に関しての詳細なアセスメントを取ってみるということです。
この過程をおこなわないと、要望の裏にある気持ちにいつまでたっても気が付かないですし、要望がエスカレートして要求になってしまう場合もあります。要望に対応し続けることが支援と勘違いしてしまう現場もあるかと思いますが、それは正直アセスメント不足から引き起こされると思っています。
利用者からの要望を職員側で勝手に判断してしまうことも、何も考えずただ要望を引き受けていくことも、私は同じくらい違和感を覚えます。
一つの例から考えてみる
成人の通所施設での出来事です。Aさんは、ある日給食で出された焼きそばを「嫌い」と言い、一口も食べませんでした。そして、「焼うどんなら食べる」と言ったため、給食で焼きそばの日は、Aさんだけ焼うどんを出すことになりました。
この時点では、一人だけ別のものを提供するという賛否も職員間でありましたが、調理的に問題がなかったので、そのような形となりました。
次にAさんは他の給食メニューにも「変えてほしい」という意思を出してきました。ここで、職員間では意見が完全に二分割となりました。
①利用者の要望は可能な限り引き受けるべきだ
②それは、単にAさんのわがままだ。集団生活の場でそれはできない
この二つの気持ち、どちらも理解した上で、私は以下の提案をし、アセスメントをしてみました。
①食事を変えてほしいと訴えがでる日に法則があるのかどうか
②Aさんのグループホームでの様子を聞いてみる
③日中の場での様子や言動から、何か読み取れることがあるかどうか
この結果、興味深いことが分かりました。
・食事を変えてほしいという日は、朝から機嫌が悪いこと
・グループホームでは焼きそばを食べていること
以上のことから、給食を変えてほしいという訴えの背景には、「何か別の要因がある」という仮説を立て、検証が始まりました。
結果的に何があったのかというと、同じグループホームに入所しているBさんとの関係性の上で、その要望が出ていたということがわかりました。(グループホームでも通所先でも、AさんとBさんは一緒でした)
どのようなことかというと…
①グループホームでBさんと些細なことですれ違い
②イライラしたAさんは、Bさんより優位に立ちたい気持ちを持つ
③給食を特別に変更してもらい、その気持ちを晴らしていた
ざっくりまとめてしまいましたが、Aさんの話や、これまで相談支援専門員による聞き取りなどを総合すると、そのように判断できました。
つまり、「給食変更の要望」の裏には、別の気持ちが隠れていたということです。これに気が付かず、給食変更の要望を受け続けていたらどうなっていたでしょうか。また、「それはできない」とバッサリ切っていたら、Aさんはどんな気持ちがしたでしょうか。
その後、グループホームや通所の場でのAさんとBさんの関係性に注意し、職員が適切に介入することで、Aさんの給食変更の要望は徐々に無くなりました。
要望は、その裏にある気持ちをキャッチする必要があるということです。
最後に
ここに挙げた例は、放課後等デイサービスなどの児童通所施設における保護者からの要望にも当てはめることができると思います。
保護者からの訴えは、その真意が伝わりにくいこともあり、現場ではどのようにしたらいいのか迷走してしまうこともあるかと思います。
そんなときは、その要望の背景には何があるのか、職員間で話し合ったり、外部の意見を聴いたりして対応したいものです。
いい意味で、目の前の出来事を疑ってみる視点も必要だと私は思います。