はじめに
生活介護や就労系、または放課後等デイサービスや児童発達支援などの日中支援において、『集団での活動』を取り入れることがあります。
また、各利用者の個別支援計画で『他者を意識できるようになる』や『集団の活動に入ることができる』などを定めることがあります。
さて、その成果はいかがでしょうか。思ったような成果が出なかったり、アプローチに行き詰ってしまったりしていませんか。
今回は、個になりやすい障害児・者の特性を十分に意識しつつ、他者を意識することができる『最初の一歩』を考えていきたいと思います。
『他者を意識していない』は本当か?
これは、間違いなのではないかと思います。障害を持った方、特に自閉的な傾向がある方は、確かに他者の気持ちを読み取ることは難しい場合があります。
そして、一人での活動を好む方も多くおられ、我々は知らず知らず『一人が好きなんだ』と解釈してしまいがちです。
しかし、他者に無関心だったり、意識していないということはないと私は思います。意識はしているものの、その表現方法がわからなかったり、関わるチャンスがないだけなのではないかと思っています。
職員による『一人が好きなんだろう』という評価も、拍車をかけているかもしれません。もちろん、無理やりに集団での活動を導入することも違和感はありますが、自然な形で他者を意識することができると、もっともっとその利用者の可能性が上がると思うのです。
そのようなわけで、ここでは『一見、他者に関して無関心、または意識していないと思われる利用者であったとしても、必ずしもそうだとは言えないのではないか』と仮定して進めていきます。
仮に、本当に無関心、または意識していない利用者がおられたとしても、以下に述べる活動や対応は効果的なのではないかと思います。
他者と意識を共有するためには
施設でできることとして、その第一歩を私の経験からご説明します。
いわゆる他者と協力しての集団活動などは、その先にあるものとして考えます。『他者と意識を共有するために』なんて大げさに書いていますが、することはただ一つ、『お手伝い』です。
お手伝いであれば、現在進行形で施設でも行っているかもしれません。恐らくは、テーブルを拭いたりモノを運んだりすることが得意な利用者が、職員の声掛けで行うそれだと想像します。
それも立派な活動ですが、その段階ではただのお手伝いです。ここにほんの少し、工夫をします。その工夫とは、他者と協力する経験です。
例えば、『食事のためのテープル拭き』であれば、職員がテーブルにアルコールスプレーをして、利用者がそれを拭くなどです。または、職員がコップにお茶を注いで、利用者がそれを配膳するなどです。何かを一緒に運ぶことも、いい経験になりそうです。
ひょっとしたら、それもすでに行っているかもしれませんね。しかし、その過程を一緒に、お互いの行動を意識しながらやってみるとどうでしょう。連携無くしては、そのお手伝いは成立しないものとなります。
ここが他者を意識するポイントです。
共同注意という言葉を聞いたことがありますでしょうか。共同注意とは、他者と同じものを見ることです。そう、赤ちゃんが、親の指さした方向を見ることです。
この共同注意が成立すると、次は三項関係というものが成立します。三項関係とは、他者―自分―モノ(目標・目的)が同時に存在することです。共同注意は二者でのやりとりですが、三項関係になると三者になります。
さてさて、そんなことを意識してやってみると、普段のお手伝いも意味のあるものになってきそうです。
その際に、職員側から『ありがとう』と自分の気持ちを伝えることも大事です。それは、具体的な方がいいかもしれません。『○○さんが○○をやってくれたから、すごく嬉しいな』だとより伝わりやすいでしょうか。各利用者に合わせた声掛けを考えたいところです。
このように、他者との協力関係を構築することで、その関係を理解するようになると考えます。ただのお手伝いも、誰かがいないと成立しません。そのことを知ると、知らず知らずのうちに他者への意識が芽生える(よりわかりやすく表現できる)のではないでしょうか。
事例
一つだけ、簡単な事例を挙げます。
他者に無関心だと思われるAくん、わが道を行くという感じでした。もう少し、他の人の気持ちも理解出来たら…と保護者の意見もあり、上記の他者と協力するお手伝いを取り入れました。
その際には、最初は職員がお手伝いのパートナーになり、その職員は努めて自分の気持ちを伝えるようにしました。次に、お手伝いのパートナーを他の利用者さんにお願いしたりもしました。
その行動が習慣化したころ、驚くことが起こりました。
ある利用者さんが落としたハンカチを、Aくんが拾ってその利用者さんに渡したのです。
これにはみんなビックリしました。これは、ハンカチを落とした利用者さんと、そのハンカチの関係性を理解して、尚且つ『ちゃんとその人の元に戻す』という複雑な過程が現れています。
これは、大きな一歩です。保護者も、職員も、すごく嬉しい気持ちになりました。
年齢的にも、本人の発達段階としても、すごくいい成果が出た事例でした。
まとめ
他者を意識すること、これはなかなか難しいものです。私たちだって難しいかもしれません。集団での活動を積極的に取り入れることも大事ですが、まずは他の誰かと協力して、信頼関係を積むこと…それが、最初の一歩になると思います。
そのために、日々の日中活動の中でできるお手伝いなど、いかがでしょうか。