はじめに
今回は、療育や介護など、福祉サービス全般における『利用者の呼び方』から生まれる支援について考えていきます。
まず、『利用者の呼び方』に関する基本的なことは以下の記事にありますので、ご覧いただけますと幸いです。
上記の記事では、敬称を付けることの大切さを書きました。本記事では、敬称を付けることで、その先の支援も展開されるという視点で書いています。
①敬称は社会に繋がる大事な要素
現在私は障害のある子どもの支援現場にいます。未就学から高校生まで携わっていますが、全員に対して敬称で呼ぶこととしています。
いつかみんな社会人になります。社会人になったとき、職場であだ名や愛称で呼ばれる方はいるでしょうか。一部にはあるのかもしれませんが、レアなケースでしょう。
それは、生活介護や就労支援系など福祉的就労でも同じです。
○○さん、と呼ぶことで、その児童も『いつかは社会に出る人なんだ』ということをお互いに認識します。どんなに障害が重くても、それは伝わるのです。
私は一貫として利用者は敬称で呼んでいますが、保護者の方から疑問視されたこともあります。『子どもらしく呼んでくれてもいいんですよ』と言われたことも一度や二度ではありません。
しかし、年齢が上がるたびに、特に高校生になると『敬称で呼んでくれるのはそちらの施設だけなので嬉しい』と言われます。
つまり、我々は敬称を通じて、その利用者に対して『社会へ出る』ことを伝えなければならないと思うのです。
私は放課後等デイサービスという事業に携わっていますが、この福祉サービスは18歳までです。しかし、18歳以降のことに関し、無関心ではいられません。だからこそ、一人の個人として認めることを、敬称を通じでおこないたいと考えています。
もちろん、ただ単に敬称を付ければいいわけではありません。機械的なそれではなく、心を込めて、その人格を最大限尊重する一つの方法が、『敬称を付ける』ということです。
②敬称は良好な人間関係の基盤になる
上記で『社会に繋がる』と書きましたが、それに伴って『良好な人間関係の基盤を築く要素の一つ』となるのも、敬称です。
私たちは、利用者さんにとってどんな関係の人となるでしょうか。少なくとも、親やきょうだいではありません。そして、友だちでもありません。もちろん、上下関係もありません。
特に放課後等デイサービスや児童発達支援などの療育現場では、利用児童のことを『呼びつけ』で呼ぶことが散見されます。恐らくは、子どもたちを可愛がっている一つの表現としての『呼び付け』であると想像されますが、いかがでしょうか。
それは、親が子どもに対しておこなうものと酷似しているように私は思います。少なくとも、サービス事業所は家庭ではありません。その部分を、勘違いしないようにしたいのです。
それでは、放課後等デイサービスや児童発達支援のような福祉サービス事業所はなんでしょうか。それは、本人によっては学校や家庭とは異なる第三の居場所とも言うものです。先に述べた『社会に繋がる』場所の一つであり、親やきょうだいとは異なる関係性を築くことができる貴重な場所です。
学校や家庭とは異なる場所で、全く新しい関係や体験をするための前提が、『敬称』だと私は考えます。
敬称を挟むことで、利用者と職員は程よい距離感を保つ効果が期待されます。この『程よい距離感』が重要で、これがあることにより療育・支援はより効果を発揮することとなるでしょう。
どんなに口酸っぱく言っても、家庭ではなかなか勉強しないのと同じです。第三者が関わり、その本人のモチベーションを高めていく一つのきっかけが、『程よい距離感』を保つための『敬称』だと私は考えています。
もう一つ、敬称にはその場で生まれる副産物もあります。
それは、利用者同士も敬称で呼び合うことです。これは社会に出てもいい習慣として残りますし、いい人間関係を形成するためのきっかけにもなります。
さて、職員が利用者のことを、親が子どもを呼ぶような呼び付け、または愛称で呼ぶ事業所と、利用者も職員も『○○さん』と自然に呼ぶ事業所、どちらが支援として相応しい現場でしょうか。
前者では、子どもたちにかける言葉も乱暴な場面もあるかもしれません。職員同士の関係も、友だちの延長上なのではないかという印象も持ちます。職員個々の専門性も、あやふやかもしれません。
我々職員は、支援(療育)の専門性を発揮するために、相手との距離感をきちんと測る術を持つことが必須条件です。
そして、程よい距離感は相手への敬意無くしては成立しません。
③敬称は、その先の支援方法を探すきっかけになる
『○○!うるさいよ!みんな迷惑だから静かにして!』
やや過激な表現にしましたが、これに近い声掛けは実際にあり得るのではないでしょうか。正直、専門性も何もないただの乱暴な声掛けですが、これではその先の支援は何も生まれません。この声掛けは、専門職でなくてもできる声掛けです。
『○○さん、少し声のボリューム落としましょうか』
今度はどうでしょう。『敬称を付けると、そのあとの声掛けが柔らかになる』という効果がありますが、こちらは十分に専門性を含んでいる声掛けです。
どの辺りに専門性を含んでいるかというと、『声のボリューム落とす』というところです。この言葉を導いたことが、その先の支援に結びきます。どういうことかというと、次の段階は『声のボリューム落とす』ために、何ができるかを考えることができるからです。
それは、視覚で訴えるものかもしれませんし、その人に合った効果的な声掛けかもしれません。それを職員で考えるきっかけになるのは、敬称が導いた『声のボリューム落とす』というきっかけです。
つまり、敬称と支援は密接な関係にあり、敬称無くしては成り立たない面もあるということです。
まとめ
福祉サービス提供時、利用者に敬称を付けることが、その先の支援を導くことについて触れました。私たちは、福祉サービスを提供する支援員です。
親やきょうだい、友だちではない特別な他者になるため、そして支援を効果的なもの、つまり専門性を持たせるため、敬称は欠かせないと思います。