今回は、福祉・介護職と燃え尽き症候群(バーンアウト)について考えていきます。
今回は福祉・介護職(医療や教育も含みます)と燃え尽き症候群(バーンアウト)について考えていきます。自らはもちろん、部下や同僚、または大切な家族が燃え尽き症候群(バーンアウト) となってしまう可能性もあります。
本記事では、 燃え尽き症候群(バーンアウト)がなぜ起こってしまうかを考えて、自分がそうならないようにすることはもちろん、周りの人がそうならないような工夫について解説しています。参考までに、私の体験談もご紹介します。
これをお読みいただき、『自分は大丈夫』『うちの従業員は問題ない』ということではなく、 燃え尽き症候群(バーンアウト)は誰にでも起こり得ると認識していただき、一人でもそれに陥ることのないように…と願います。
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福祉・介護職と燃え尽き症候群(バーンアウト)~その原因とは?~
福祉・介護職などの対人関係の仕事と、燃え尽き症候群(バーンアウト)は身近な関係にあると言われています。それでは、それはなぜなのでしょうか?ここでは、その原因について考えていきます。
① 日々の支援が利用者の生活を支えていること
施設でも居宅支援でも利用者支援は福祉サービスと言われていますが、それは単なる「サービス」に留まらず、生きるためにに必要な支援をすることがサービスとされています。職員はそのことをよく承知しているので、『自分がいなかったらどうなるのか?』と思いながら仕事をしている方もいると思います。
すると、『自分がいないと利用者の生活が成り立たない』というマインドに変化してしまう場合もあります。これは、若い人や責任感が強い方がそうなる可能性が高いと言えます。
②その職員が持つ特性と、その現場の状況の組み合わせの悪さ
上記の責任感の感じ方には個人差がありますが、 『自分がいないと利用者の生活が成り立たない』 と感じさせてしまう要因は、その施設や事業所のやり方によるものが大きいでしょう。
例えば、『ある利用者の支援を一人の職員のみに頼っていた』という状況があると、人一倍責任感の強い職員はそれをやりがいと思い取り組み、いい成果を上げるかもしれません。しかし、それは業務の抱え込みを招く結果となり、 燃え尽き症候群(バーンアウト)に繋がってしまうかもしれません。
つまり、責任感の強さや若さなどの個人的な要因と、その職場の状況の組み合わせが悪いと、燃え尽き症候群(バーンアウト) のリスクが高くなると言えます。
③介護・福祉業の特徴
もちろん、その組み合わせだけではなく、福祉や介護の現場は自分の思う通りの支援(理想とする支援)がも必ずしもできないところもポイントです。試行錯誤して提供した支援が思うような効果がでないとき、それが周りの職員に評価されなかったとき…無力感を感じてしまうかもしれませんね。
特に、私が主に携わっている障害福祉分野は、すぐに成果や効果が出る環境ではありません。じっくり利用者と関わり、試行錯誤しながら支援をしていく過程です。効果的とされる支援でも、それが実を結ぶのはずっと先かもしれません。
ある意味では、終わりのない仕事です。そして、結果が出にくく、先の見えない状況に無力感を感じてしまう…誰でも、一度は感じたことのある気持ちだと思います。
④肉体的・精神的に負荷がかかる
施設における夜勤、そして怪我や事故、クレームなどの処理。日々の業務で、肉体的にも精神的にもすり減ってしまうことが想像されます。特に介護・支援は心身ともに体力勝負でもあります。
しかし、『 日々の支援が利用者の生活を支えていること』は確かなので、利用者のためになんとかやりきってしまう、という場面も少なくないでしょう。特に、人手不足の現場では、その責任感と業務のハードさも相まって、燃え尽きるリスクは高いと思います。
そして、場所によっては労働と賃金が見合わないといったことも起こってきます。これは、精神的な負荷となってくる事柄です。
⑤孤立しやすい状況にある
施設での集団生活であっても、利用者と接するときは一対一です。チームで仕事をするのは当たり前ですが、その中でも利用者との関係性は個々の関係とも言えます。そのことが、まずは孤立を深める要因となってしまいます。
そして、その支援や自分の考え方が、周りの職員や上司と上手く共有できなかったとき…きっとさらに孤立してしまうでしょう。このような環境で、自分のことを最もよくわかってくれるのは誰でしょうか。そう、そんな環境下では、利用者に自らの理解を求めてしまう心理傾向になりやすいと思われます。
すると、元々一対一の関係は、もっと深い一対一の関係に変化します。『これでいいんだ』と自分に言い聞かせながら、日々の業務をすることになりますが、気持ち的にはパンパンで、いつ割れてもおかしくないくらいの風船を抱えているような状況になってしまいます。もちろん、過重な肉体的、精神的負担が拍車をかけるでしょう。
このように、『人が好きで、支援や介護が楽しい』と思う職員が、いつの間にか蝕まれてしまうのが燃え尽き症候群だと考えられます。
つまり、このブログ的には『人財』であるが故、燃え尽きる可能性をはらんでいると考えます。もちろん、上手くやりこなす『人財』も数多くいるでしょう。しかし、それに気が付くことができるのは一握り。私はそう思います。
燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐ6つの対策
ここでは、燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐ6つの対策をご紹介いたします。①~③は職場での取り組み、④~⑥は個人でできる取り組みです。
・職場で取り組むことができること
①一人の利用者を、みんなで支える環境作り
『あの利用者さんはあの職員じゃなきゃ』という考えだと、職員に過重な負担がいきやすいでしょう。もちろん、相性や好みなどもあるかもしれませんが、いろんな職員が携わることで、その利用者の可能性も広がってくるという視点で考えていきたいろことです。
逆の立場だと、『任されたことで嬉しい』という気持ちになることもあります。それはもちろん尊重しつつも、みんなで支えている環境を作ることが、燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐ環境作りと言えます。
この環境設定のもう一つの利点は、『客観的な視点』があることです。自らの利用者への関わりや仕事への携わり方について、他の職員からの『客観的な視点による意見』が、いい気付きになる場合もあります。 自分の偏りに気が付くきっかけになるということです。
②職場外での人間関係を重視する
同じ職場での人間関係も大事ですが、近隣の事業所だったり、全く関係のないところでの関係も大事です。私が上司として考えるならば、近隣で催される研究会の参加などに、職員を参加させることも考えます。
別の事業所の話や考え方に触れることで、いい気付きをもらえますし、自らの偏りに気が付く可能性もあります。閉じ込めてばかりいると、いい結果に結びつかないと思います。
③意識的に支援会議などを設ける
日々の打ち合せはもちろん、支援の振り返りができる機会を多く設けます。支援に対しての行き詰まりが、燃え尽きを生む背景にあることは間違いありません。そこで、支援の振り返りや、その支援に関しての共通認識を確認する場を設けていきたいところです。
孤立化した支援を生まないために、支援方法の確認を通じて職員の様子を知ることもポイントです。
・個人で取り組むことができること
④仕事に対する考え方を少しだけ緩める
責任放棄をするということではなくて、ほんの少し緩めるだけでいいのです。『自分がいなくても、きっとなんとかなる』そんな気持ちでいいのだと思います。利用者や周りの職員による、自分に向けられる期待感に嬉しくなることもあり、それがこの仕事の醍醐味と言えるかもしれません。
しかし、それがあなたの全てではないのですから、少しだけ考えを緩めてもいいです。
⑤リフレッシュする方法を持つこと
これが自分のリフレッシュ法!というものを確立するといいと思います。ヒトカラ、買い物、食べ歩き、飲み会…人それぞれ、様々なリフレッシュ法があるでしょう。『疲れたなぁ』というとき、手軽にできる定番のリフレッシュ法があると、ずいぶん気持ちも楽になると思われます。
⑥メリハリを設けること
仕事は仕事、そうでないときは忘れる!くらいの気持ちでいきましょう。忙しいときや、やることが多いときなど、確かに場を離れても考えなければならないときがあります。それも大事なことかもしれませんが、その必要がなくなったらすっぱり忘れてもいいのです。
さて、ここからは私のことを書いていきますね。燃え尽きて、仕事ができなくなった経験について記します。
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私の燃えつき体験
・当時の状況
福祉の仕事を始めて数年、20代半ばでした。今思うと、『自分は何でもできる!』という感覚と、根拠のない自信に溢れて仕事をしていました。当時所属していた法人は立ち上げて5年程度でしたが大幅に伸びていて、正規従業員15名程度、パート従業員は20名程度、展開するサービスも複数にわたるものになってきました。
支援する利用者数も増え、元々の法人の趣旨である『困ったときは必ず助ける』という評価も内外から受けていました。私自身も、まだ20代だったので、体力的にも精神的にも余裕があり、依頼があれば休みも関係なく仕事をしたりしていました。当時は、それが楽しかったのです。
また、そのとき私はある部門を任されるようになっていました。責任はありましたが、やりがいを感じていたことも事実でした。
・ある大きな仕事がはじまった
その法人内で、ある一つの大きなミッションが動き始めました。行政のバックアップもあり、『これはすごいことになるぞ』という実感もありました。私は、そのプロジェクトチームに立候補。そのチームには、私のような既存の職員と、外部からヘッドハンティングしてきた職員が混在するチームで、最初は歩み寄り出来なかった部分もあったのですが、徐々に馴染んでいきました。
さて、その大きなプロジェクト、当然小さな法人には様々な形でシワ寄せが来ました。ここでは具体的に一点だけ述べますが、プロジェクト遂行のための『組織化』が大きな課題となっていました。そのため、急ごしらえで組織化を進めていきました。内部で反発もありましたが、なんとか形になりそうな段階となったとき、私はそのプロジェクトから外されてしまったのです。
正直、なんでだかわかりませんでした。新プロジェクトに費やした時間や思いも人一倍強いものだったので、外された現実を受け止められず、一人腐っていました。
・がむしゃらに…働く!!!
『こうなったら、この法人にどれだけ自分が必要か、わかってもらおう!』
そんな風に考えを切り替えてしまい、とにかくがむしゃらに働きました。必要以上にイベントを考案したり、外部に向けての広報誌を出すことを提案したり、渉外面に取り組んだり…抱える仕事が増えれば増えるほど、自分は必要とされている、という考えに陥ってしまったのです。
また、利用者さんからの私への良い評価も、それに拍車をかけてしまいました。それは、『自分しか、この人の支援ができないんだ』という自負です。『この利用者さんをわかるのは、自分だけ』という、属人的な支援状況を、自ら生んでいたようにも思います。
正直、今とは真逆の考え方です。でも、今の考えはこのときの心理状態から導き出されていることが多く、私にとっては必要な経験だったのかもしれません。だからこそ、他の方へ伝えることで、少しでも気づきになってもらえたら、と思ってこの文章を書いています。
・そして、決定的な出来事が…
そんな状態で、数年間頑張ってきたと思います。ある日、私は異動を打診されました。そのことがきっかけで、ダムが崩壊したように気持ちがあふれ出してしまったのです。その理由は、『こんなに頑張ってこの部門を良くしようとしているのに、どうして異動なんだ!』というものでした。
完全に、方向性を見失ってしまっていたのでしょう。属人的な業務、支援が、見当はずれの責任感を生んでしまったのです。当時の気持ちを一言で言い表すなら、ずばり『誰も自分のことをわかってくれない』です。まさに、孤立状態と言える状況でした。
・仕事ができなくなった日のこと
異動を打診されてから、期日まで半年くらいありました。だんだん、出社するのが面倒に感じることが増えました。それでも、出社すれば楽しく仕事ができていたのですが、徐々にイライラすることも増えてきました。
それは、利用者さんの言動だったり、様子だったり、他の職員のことだったりもしました。自分はどちらかというと気が長い方なので、『なんか変だな』と自分で自分のことを思っていました。
気持ちとしては、『どうしたら自分のことを認めてくれるのか』というものが未だ胸の中にあって、モヤモヤしつつも、まだ前向きな気持ちを持ち続けているようでした。
しかし、この時期不眠に悩まされたこともまた事実でした。ボーっとしていることも増えていました。
ある週末、家でぼんやり過ごしてました。急にそわそわして外に飛び出したら、なんと空笑いが止まらないのです。全然おかしくないのに、「わはは」という声が出るのです。「変だなぁ」と思っても、それは止まりません。
しばらく外で笑っていましたが、心の中はボロボロと何か崩れたような感覚でした。そして、週明けに職場へと向かうことができなくなったのでした。ぼんやりと2週間くらい休んで、 退職願を提出しました。
・そのまま長期休暇へ…
退職届を出し、そのまま退職をするつもりで有給消化をするため休みに入りました。しばらく家で休んでいましたが、久しぶりに旅行を企画して出かけたりもしました。気持ち的に回復しそうな目途が立ったとき、友人にもたくさん会いに行きました。友人は口々に『いつも忙しいのに大丈夫なの?』と言いました。
思えば、たくさん約束を断っていたことを思い出しました。好きなバンドのラストライブも仕事で断ったこともありました。相変わらず不眠でしたし、完全な回復ではありませんでしたが、ある程度の時期になったら仕事の呪縛はなくなってしまいました。
その頃に、私はある決心をしていました。それは、福祉業は二度とやらないということです。
・職場での面談を経て
退職届を出したときに、決められた職場の面談がありました。それをそのままにして退職も気持ちが悪いので、それだけは出席しようと決めていました。
その面談で、私は今まで感じていたことをすべて話すことができました。当時の上司に、心からの感謝です。そして、面談の枠を超えて、お互いの内面まで深く話し合う時間となりました。
そこで、私が今まで抱えていた仕事への取り組み方に、偏りがあることもわかりました。
何度か面談を経て、ひとつはっきりした気持ちが芽生えてきました。それは、『肩の力を抜いて、もう一度やってみようかな』というものでした。上司は、その私の気持ちを察知したのかもしれません。『新規採用した3人の職員の育成をお願いできるか?』と私に尋ねました。
数日考え、私は自分の中でゴーサインを出しました。今までのプライドを捨てて、もう一度出直してみようと思ったのです。異動も快く引き受けました。そして、新卒で採用した3人の職員を育成する立場となりました。
春になり、私は『それまでの福祉人としての自分は死んだ』とさえ思って、新人のつもりで業務をおこないました。
入ってきた新人にも感謝しながら、ときに厳しく指導しながら…。それは、新人教育ではありましたが、さながら私の再生の過程と似通っているものだと思ったりもしました。
連携し、支援をし、振り返りをする…業務はみんなで分担する。上司も、的確なサポートをしてくれました。そのおかげで、再び仕事を続けることができるようになりました。
・そこからの道のり
さて、そんなこんなで、リ・スタートを切った私ですが、この出来事は専門的な勉強(資格取得)をしようとする動機の一つにもなっているのでした。あらゆるものを学び、吸収し、なりたい自分になろう!そんな気持ちだったと思います。
さらに、働き方を見直すという意味合いで、職場内で勉強会をしたり、問題提起をして働き方を改善することにも力を入れました。その際には、かつて自分が仕事を抱え込んでいた経験を思い出し、ときに語り、それをみんなで参考にすることもありました。このことは、後進の育成として、ちゃんと伝えていきたいと思っている事柄の一つです。
『みんなで防ごう、職場で見守ろう、燃え尽きないように』
この言葉を忘れないように、日々の業務に取り組んでいます。
この記事のまとめ
本記事を振り返っていきます。
・『燃え尽き症候群(バーンアウト)とは?』
→やる気がなくなってしまう、つまりは仕事に対して燃え尽きてしまう状態です。対人援助職には起こりやすいとされています。
・『 燃え尽き症候群(バーンアウト) の原因とは?』
→孤立しやすい環境や、適切な評価がなされていないことが原因と思われます。
・『防ぐための対策は?』
→職場で防ぐことができることと、個人で防ぐことができる二つの側面があります。それぞれ、現在の立場でできることを取り組んでみてください。
・私の体験から…
→誰にでも起こり得ることだと思います。特に、当時の私のように若い方や、ちょっとした歯車の狂いで仕事の波に乗れなくなった場合など。回復には時間をかけて、信頼できる人と腹を割って話すこと、自分の仕事の振り返りやその後の職場環境作りが大事だと感じます。
燃え尽きるという表現だけど、『空気が抜ける』という表現の方が近いわね。
苦しい数か月でした。周りのみんなのおかげで、今は元気に仕事ができています。
長い記事でしたが、最後までありごとうございました。