今回は『移動支援』と言う障害福祉サービスについて詳しく見ていきたいと思います。実際の支援内容も含めて解説していきます!
障害者・障害児が、屋外を移動するための障害福祉サービスには、現在複数のサービスがあります。ここでは、もっとも知られている、そして使いやすいサービスである『移動支援』について焦点を当てていきます。
この『移動支援』に関して、利用する立場からの利用方法、そしてサービスを提供する側にも立ちながら解説をしていきたいと思います。
『移動支援』ってなに?というところから、どんなことができるのか、そして問題点まで、現場の声として記事を書いていきます。
なお、後述しますが、移動支援は「市町村単位の地域生活支援事業」と呼ばれているものです。したがいまして、『移動支援』というサービス名ではない可能性もあります。予め、ご承知おきください。
移動支援とは?~制度の概要・対象者~
移動支援は、『単独では外出困難な障害者(児)が、社会生活上必要不可欠な外出及び余暇活動や社会参加のため、外出時にヘルパーを派遣し、必要な移動の介助及び外出に伴って必要となる介護を提供するサービス』とされています。
これは、障害福祉サービスの一つで、受給者証に支給量を下してもらい、移動支援事業所と契約し、利用することができるサービスです。
・利用対象は?
上記の文章だけでは、少しわかりにくい部分がありますね。『単独では外出困難な障害者(児)』と言う部分では、外出困難かどうかの判断は市町村の判断となります。一般的に外出が困難とされる車いすの方のみが対象なわけではなく、知的障害者や発達障害児、精神障害者も対象となります。手帳の保持が条件だったり、医師の意見書が必要な場合があります。
・どんな外出が対象なのか?
次に、『社会生活上必要不可欠な外出』と言う部分を見ていきましょう。これは、『社会生活上必要不可欠な外出』というと余程の重要な外出だと思われるかもしれませんが、必要な買い物や手続きなどを含むと考えられています。
そのあとに、『余暇活動や社会参加』とありますのが、主にこの余暇活動のために用いられることが多いのが移動支援です。映画鑑賞や水族館や遊園地、プールなど、余暇活動のための外出が考えられますね。
・支援者はどんな人か?
そして、『ヘルパーを派遣し』とあるように、外出時にはヘルパーと呼ばれる人が派遣されます。基本的には一対一のマンツーマン外出となります。ヘルパーの定義は、市町村により異なりますが、初任者研修修了者を主なものとして、ガイドヘルパー研修受講者、または市町村独自に別の資格などが認められる場合もあります。
・移動手段は?
最後に、『必要な移動の介助及び外出に伴って必要となる介護』ですが、これは原則交通公共機関の移動に伴う介助と考えられています。一緒にバスに乗り運賃を支払う支援、乗車中の安全を確保するための支援など、目的となる現地までの移動を支援するものです。
もちろん、現地についてからの介助も含みます。
『移動支援』という言葉から、タクシーのようなものを想像しますが、原則としてヘルパーが車を運転し、利用者がそれに乗車する想定はありません。ただ、この辺りも市町村により解釈が異なりますので、確認が必要な部分です。
・使えないときはどんな場合か?
まず、原則、通勤・通学などにこのサービスを使うことができません。通院にも用いることができません。主な利用の想定は余暇支援となります。しかし、市町村の裁量で、一部利用が可能になる場合もあります。
例えば、私の知る市町村では、基本的に通学のための移動支援は認められていませんが、『自力で通学するため交通機関の乗る順番を覚える』という目的があると、期間を定めて『移動支援』を使うことができるようになります。
・費用はどれくらいかかるのか?
原則として、サービス利用料の一割が利用者負担となります。しかし、移動支援は市町村によりサービス単価が違うので、この場で一割負担金がいくらかどうかをお示しすることはできません。
参考までにお示しすると、うちの近隣市町村の平均は一時間当たりの単価が2,500~3,000円なので、その一割ということで、利用者負担は一時間250~300円となります。しかし、ほとんどの場合一割負担金上限月額が定められているので、月額の負担は4,600円、または37,200円になるでしょう。
しかし、移動支援は実費がかかります。本人とヘルパーの交通費、入館料など、移動や余暇活動についてかかった分は負担しなければなりません。ヘルパーの交通費なども、利用者負担となりますので、ご注意ください。
もちろん、食事代はそれぞれ負担していくのが望ましいと考えます。移動にかかるもの、本人が希望するもので、付き添いが必要なものに関しては、二人分かかるということです。
例外として、本人がフランス料理のフルコースを希望した場合は、相手の食費も利用者負担になる見込みです。本人の希望ということと、フランス料理のフルコースが外出の目的となっているからです。
※事業所によっては、ヘルパーの食事も一部利用者負担としているところもあります。これに関しては決まりがないので、各事業所の方針によります。
移動支援の利用例を挙げていきます!
今まで私が携わった利用ケースを挙げていきます。
1 支援学校終了後の買い物付き添い
特別支援学校が終わった後、学校にお迎えに行き、バスに乗って駅前まで行き、本人の好きなものを一つ買って帰宅するというものです。
このケース、知っている人からすると驚かれるかもしれません。先に挙げたように、『原則として通勤や通学のために利用できない』からです。このケースにおいては、学校の通学支援と言うより、買い物に重きが置かれていたため、そしてご家族に支援が必要なケースだったため、期間を定めてOKとなったケースでした。
通常ですと、支援学校が終わって、本人が帰宅した後、家に迎えに行ってからスタートするというものです。学校への直接迎えに関しては、やはり市町村、またはその個々のケースで検討となると思います。
2 生活介護等施設終了後のプール活動
18歳以上の方が通う施設サービスが終わった後、プールへ行って汗を流すというものです。プールへは私も一緒に入水しての支援でした。
このケースも、先ほどの学校迎えのケースと同様です。『通学や通勤には使えない』という原則からすると、施設へのお迎えは『通勤』と捉えられてできませんでした。したがって、このケースは本人が帰宅後、ご自宅からスタートとなりました。
3 イベント参加
電車に乗っていく場所で開催される、イベントへの同行をしました。週末なのでご自宅へ迎えに行き、そこから交通機関を使って目的地へ、そのあと外食をして、最寄り駅で解散としました。
原則、ご自宅へお迎えに行ってご自宅へお送りするというものですが、現地集合現地解散も可能とされています。そのため、待ち合わせのスタイルを取ることもありました。
4 通勤の支援
障害者枠で就労された方の、通勤の支援もおこないました。これも、原則認められないとされていますが、経路の確認と安全に通勤するための支援として、期間限定でおこなったものでした。期間内に無事に自力での通勤が可能になったので、ホッと一安心のケースでした。
5 未就学の幼児と公園遊び
以前はあり得る話でしたが、ここ最近は全くなくなった(うちの地域では支給が下りなくなった)ケースです。多動のお子さんなど、保護者が見るのが難しい場合に、公園の付き添いなどしたことがあります。
一応原則としては、未就学児童に移動支援の支給は下りないとされています。理由は、未就学児の外出は、その子の意思で、一人でおこなう想定がないからです。この解釈は、恐らく『未就学児は、その子ども自体に外出の意思をくみ取ることが難しく、かつ一人で外出する機会がなく、その場合も保護者が同行するのが普通だから』というものです。
個人的には、前述のとおり保護者が見ることが難しい場合が多いと思うので、短時間でも支給があれば、お互いいいリフレッシュになるのに…と思ったりします。
移動支援を利用するメリット・デメリット
利用する側としてのメリットは、以下のことが考えられます。
1 親が連れていけない場所に連れて行ってもらえる。
→特に小さなきょうだいがいる場合や、ごきょうだいそれぞれ行きたいところが違う場合などもあります。
2 家族以外の人と外出する経験になる。
→他の人と外出することで、新しい発見にもなります。
3 余暇活動として、お出かけを楽しみに日々頑張ることができる。
→就職している方などは、お出かけの日を楽しみにしてくれています。
メリットとしてまとめると、やはり経験値を積むことが大きいなと感じます。いろんな場所、人との外出に慣れていくと、本人も柔軟で臨機応変さが利くようになるように思います。
児童だった場合は、きょうだいが小さくて一緒に出かけることができない、なんて話もよくあります。そんなときも、それぞれ外出や余暇を楽しむことができます。あと、基本的に移動支援は土、日、祝日に稼働することが多いので、週末の支援としてもサポートを受けることができます。
利用する側としてのデメリットは、以下のことが考えられます。
1 実費の費用がそれなりにかかる。
→場所にもよりますが、一度に2,000~5,000円はかかります。
2 支給時間数が少ない、または下りない。
→デメリットというより、利用の際の困難さですね。市町村事業なので、その地域次第なところがあります。
3 相性の合わないヘルパーが担当になる場合もある。
→ヘルパー指名制など、昔から問題になっています。相性の合わない方もいますので、外出自体が嫌にならないようにしたいところです。
費用に関して考え方次第ですが、例えばお子さんの場合、親御さんが外出に連れて行っても費用はかかるでしょう。そう思うと、「実費の費用」がかかるのはある意味当たり前だからデメリットとは言えないかもしれません。
しかし、移動支援を「預かりの一つの選択肢」と考えると、他のサービスに比べて実費がかかるという印象になります。個人的には、移動支援は余暇の一つで、預かりじゃなく、本人の希望で楽しいところに連れて行ってあげたいなと思っています。
支援者として必要なこと
支援者側として、支援に当たって必要なことを書いていきます。
- 自分が外出慣れしているかどうか。
- バスや電車は、乗り慣れているか。
- トイレの場所など、スムーズに案内できるか。
- レストラン等での注文の仕方は把握しているか。
- 緊急時の対応は頭に入っていいるか。
- 体調のコントロールができるかどうか。
まず、ご自身が外出が好きでないとなかなか成り立ちません。利用者さんのペースに合わせることも、自分が外出に慣れていないとわからない部分もあります。
そして、バスや電車の乗り継ぎやシステムが把握できているか。最寄りの駅構内やショッピングモールでのトイレを把握しているか。さらには外食時の注文は滞りなくおこなうことができるかどうか。
間違いなく、外出慣れしていると、利用者さんとの移動もスムーズです。そして、外出が好きな方は、この仕事が向いていると考えられます!
さらに、体調のコントロールも必要な部分です。例えば、暑い時期は苦手、長時間歩き続けるのが体力的にキツイなど、自分の苦手を把握し、支援中に体調を崩さないようにしたいものです。
あと、これは完全に向き不向きなのですが、施設系の勤務と、このような移動支援、居宅介護系は全く異なります。
施設系は建物の中で、ほぼ決まった利用者、職員と過ごしますが、移動支援、居宅介護系は毎日違う利用者と屋外、または屋内で過ごすことになります。毎日飽きない!と思うか、なんだか落ち着かないと思うかどうか、向いている方は思い切りその状況を楽しめるでしょう。
支援する上で一番大切なこと
移動支援だけに携わっていると、その場での利用者さんの様子しかわかりません。したがいまして、そのときの利用者像だけがすべてだと思い込みがちです。
しかし、その利用者さんにとって、恐らく移動支援は特別な一日になっていると思います。何故かというと、学校や仕事を頑張ったあとの、お楽しみの外出となっているからです。
つまり、移動支援は利用者の余暇活動(お楽しみ)を支えているということです。そして、その余暇活動は生活に彩りを加えるものです。どうかそのことを知った上で、移動支援に携わってもらいたいなと思います。
利用者にとっては、待ちに待った外出です。でも、同行するヘルパーがつまらなそうだったら?きつい物言いばかりしてきたら?一緒に電車に乗っているのに、スマホばかり見ているヘルパーだったら?…それは楽しい外出でしょうか?
自分の関わり一つで、その余暇活動はモノクロにも鮮やかにもなります。その利用者の生活全体を見渡して、自分の関わる移動支援がどんな役割を担っているか、考えながら支援をしたいと思います。
もちろん、利用者に社会的な振る舞いや、公共機関での過ごし方を支援する場でもあります。教えていく視点は必要ですが、余暇として、それを損なうことのないような伝え方を予め知っておきたいですね。とても、大事なことだと思っています。
記事のまとめ
移動支援事業は、障害福祉サービスの一部で、地域生活支援事業と呼ばれています。つまり、市町村に裁量のある事業なので、地域差があるということです。
主に障害者・障害児の余暇活動を支える支援で、電車に乗って移動したり、イベントに参加したり、制限はあるものの有効に使うことができるサービスです。
また、一対一の外出と言うこともあり、支援者側にもスキルが求められます。特別な一日を、より楽しく過ごすための工夫をしていきたいところです。
【追記】コロナ渦での移動支援
2021年8月現在、まだまだコロナウイルスも猛威をふるっているところです。このような状況ですと、余暇活動としての外出先も考えなければなりません。
これは、あくまで自治体単位の判断ですが、移動支援とはいっても、ヘルパーと本人がご自宅で過ごすことや、その事業所の事務所等で過ごすことが認められてきています。もちろん、原則そのようなことはNGですので、利用の前または事業所であれば提供の前に、自治体に確認してみるといいと思います。
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