はじめに
『放課後等デイサービス』という福祉サービスについて、そのサービスが担っている役割と、今後の方向性・将来性について考えていきます。
この記事では、放課後等デイサービス事業が生まれた背景や、当時の実際の支援現場を振り返っていくことからはじまり、今の放課後等デイサービスが担っている役割についてまとめていきます。
その上で、放課後等デイサービスの将来性や方向性について考えていきます。
※以下、『放課後等デイサービス』は、『放デイ』と略します。
放デイ以前に存在した、児童の支援状況とは?
現在福祉サービスを利用されている20代の利用者のご家族は、『昔は子どもを預かってくれるサービスはなかった』と思っているでしょう。そして、現在学齢期の保護者に対して、『今はいい時代だ』と説くことも多いように感じます。話は逸れますが、このような世代間のサービスの提供状況により、お互いが歩み寄ることのできない場面も多々見受けられます。
さて、令和2年現在から考えて15年以上前…確かに障害を持つお子さんを支援する場は、ほとんどない状況でした。正確に言うと、放デイのような支援をする現場はありませんでした。
多くの保護者が就労を諦め、何か困ったことがあってもお子さんを預けられる場所がない、という悩みがありました。少なくとも、私のいる地域では、使えるサービスとしては、地域生活支援事業の移動支援くらいでした。
当然、学齢期の児童であっても使えるサービスということで、申し込みが殺到しました。今では考えられないのですが、移動支援の支給時間数が月に100時間を超えることもありました。その後、移動支援の支給も見直され、障害児童の預かりは『日中一時支援』に移行することになりました。
放デイ以前から児童の支援をしていた事業所は、ほとんどがこの日中一時支援を辿っていると思います。この日中一時支援は、移動支援と同じく市町村による地域生活支援事業となります。市町村により異なりますが、基本報酬は低く、その代り職員の要件などが緩く、基本的な支援は『預かり』というものになっています。
さらにその後、放デイの前身となる『児童デイ』というサービスがスタートします。この時点で、日中一時支援から児童デイに移行した事業所が多いと思われます。これは、幼児から18歳までの障害児の支援に対応しているサービスで、『障害児の療育』を掲げていたものではありましたが、実際は預かりの面が多かったと思われます。
この時点の児童デイ、療育という面はあったものの、ニーズとしては預かりと保護者の就労を支える部分があったと感じます。今まで存在していた『児童の支援』を踏襲したものだったのです。諸々未整備な面は否めませんが、障害児の支援の場所としては、十分に機能していたのでしょう。
そして平成24年、根拠となる法律を児童福祉法に移し、放課後等デイサービス事業がスタートしました。
今まで存在していたニーズは把握しながらも、『障害児の療育』は児童発達支援や放課後等デイサービスに、『広義の預かり』は日中一時支援や他のサービス(保護者が就労している場合は未就学なら保育園に、就学児なら学童)にするというイメージがあったと思われます。
放課後等デイサービスが登場してから
放デイは、児童デイとは異なり、幼児は対象外(児童発達支援)となりました。したがって、学齢期の障害児の支援に特化した療育施設として、広く認知されることになります。
日中一時支援、児童デイと辿った事業所は、当然放デイに移行しました。児童デイが廃止になったので当然と言えば当然ですが、日中一時支援に戻すという考え方は、報酬の面も当時のトレンドとしてもあまり考えられなかったのです。ここが、制度設立の思惑と外れた部分だと思います。
※開設当時の放デイは、療育については児童デイよりもさらに重視するというニュアンスだったのですが、日中一時~児童デイ~放デイ~と移行した事業所は、実際は変わらなかったところも多かったであろうということです。
つまり、保護者のレスパイト(休息)とご家族の就労を支えるという部分は避けて通れないということだったと思います。
そして、放デイが登場したことにより、様々な事業者がこのサービスに参入してきました。その多くが、特色のある療育を掲げ、店舗によってはフランチャイズ展開などをして、放デイの数は爆発的に増えました。
この時点で、放デイには大まかに分けて2つのスタイルがあることがわかります。一つは昔ながらの預かりメインのスタイル、もう一つは療育メインの施設です。そして、両者の施設を並行して使う利用者の層はなかなかおらず、どちらかに偏ることになったと思います。つまり、利用者も事業者も職員も、双方の放デイの在り方に、お互いが疑問を持つという奇妙な状況が生まれたと思います。
昔ながらのデイとしては、『療育メインと言ったって、ご家庭の困りごとを解決する役割だったあるはず』と。療育メインのところは、『預かりなんて療育じゃない』というような感じです。
そして、ついに行政からの指導としては、『放課後等デイサービスは療育ありき、預かり、または保護者の就労を支えるなら日中一時支援を使うこと』というものとなりました。
※一応、放デイの役割として、『保護者の時間を保障するために、ケアを一時的に代行する支援を行うこと』とも定められています。しかし、保護者の就労を支えるという文言は見当たりません。個人的には、保護者の就労を支えるという面も広義の療育と思います。
そこで困ったのは昔ながらの預かりメインの事業所でした。日中一時支援は単価が低く、とても事業としては成立しません。そこで、とりあえずのところの『療育』を打ち出し、放デイの基準に乗るように体裁を整えました。その影響で、事業所、職員間にも『放デイは療育施設』という感覚が浸透したと思います。
したがって、保護者のニーズとして、預かりメイン、または就労を継続するために利用したいという層に関して、やや冷ややかになってしまう一面も見受けられました。保護者との、利用に関しての乖離が生まれた瞬間だと思います。
そして、放デイは様々な役割を抱えながら、今も数を増やしています。さて、今後はどうなるでしょうか。そんな折、令和2年にコロナウイルスによる影響で放デイは岐路に立たされました。以下の記事をご覧ください。
放デイの今後について
上記の記事にも書きましたが、放デイはこの騒動で様々な役割を担っていることが分かりました。そして、それは重荷とも言えるものだったのかもしれません。そして、放デイの閉所が相次げば相次ぐほど、保護者のニーズとして『レスパイト的な役割』が比重を占めてきているところでしょう。
やはり、必要なことは本人の支援もしながら、家族の支援もすることだと思います。療育も、預かりも、保護者の就労を支える側面も、どれも優劣はないと思います。どのニーズも大事なのです。上記の記事では役割の分散を提案しましたが、放課後等デイサービス自体をA型(療育特化型)、B型(居場所・学童型)のようにわけてもいいのかもしれません。支援のノウハウも違いますし、利用の利用者像も異なるかもしれません。
さて、今後の動きです。コロナ騒動後の放デイはどうなるでしょうか。
私は、既存のデイがさらに療育特化型になってしまうのではないかと危惧します。この一件で、預かり、または保護者の就労を支える側面については、現場レベルで拒否反応となっている可能性があり、療育を盾にそのような層を受け入れない動きになるのではないかと想像します。
一方では、療育を掲げながら、コロナの影響で明らかになったニーズに沿って、預かりを意識した展開にシフトするところも出てくるでしょう。バランスとセンスが求められる部分になると思われます。
いずれにしても、本人や保護者のニーズはどこにあるのか。それを忘れないようにしたいです。
少し話は変わりますが、コロナウイルスの影響で在宅支援が充実しているデイサービスも増えると予想します。これは療育特化型の場合ですね。コロナが収束したら在宅支援は給付費算定はできないものと思いますが、形を変えて給付費の対象となる支援になる可能性もあるのではないかと思ったりもします。
また、給付費算定の対象にはならないものの、その事業所のサービスとしてオンラインの在宅支援など設けるところはありそうですね。それは、いい流れだと思います。
結論としては、何か一つのことに特化したデイが生き残るであろうと思います。その『特化』の中に、利用者・ご家族・職員・管理者・経営者が同じところを向いている必要があることは、言うまでもありません。
関わる人たちと同じ景色を共有できる事業所は、どんなときも強いのです。
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