就労継続支援B型事業所の工賃支給の問題点について

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支援力をつける人財

はじめに

 今回は、障害者総合支援法に定められている就労継続支援B型事業所(通称:就B:シュウビー)の工賃支給について、その問題点を書いていきたいと思います。

 現状の課題と考えられること、そして今後の展開について考察していきます。私自身、今までのキャリアの中で就労系の施設(無認可作業所や就B)にいたことが一番長く、その当時も工賃について考えていました。

 そんな経験から、この記事を書いていきます。

 就労継続支援B型事業所の概要は以下の記事に書いていますので、ご覧ください。

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工賃の位置づけとは?

 工賃としていますが、わかりやすく言えば利用者に対してのお給料ということになります。事業所によってお給料・工賃・手当など呼び方がことなりますが、作業の対価として利用者に払うものは一般的に『工賃』とされています。

 さて、この工賃、就労継続支援B型がサービス体系として組み込まれた当初から、月額3,000円以上を利用者に支払わなくてはならないという決まりがありました。

 もちろん、欠席をされた方はその限りではありませんが、10人利用者がいて、その全員がその月に休まず通所したとしたら、作業収入は30,000円以上ないとならないということになります。それくらいの収入がないと、一人3,000円以上支給できませんから、単純に考えるとそういうことになります。

 サービス体系として就Bが登場したときは、工賃規定は上記のような感じでしたが、国からは、徐々に工賃を上げるよう取り組みをすることが事業所に求められることとなりました。

 『工賃向上計画』として、計画を掲げ実施することで得られる報酬の加算もあり、現状では工賃の向上を掲げ、それを実施することは必須といっても過言ではありません。

 ところで、全国の就労継続支援B型の平均工賃はご存じでしょうか。厚生労働省のHPに載っているかと思いますが、現在のところ平均工賃月額は16,000円程度となっています。

 もちろん、平均なので各事業所でバラつきがあります。私の地域でも、3,000円のところもあれば、100,000円のところもあったりします。

 なぜ『工賃を向上させるか』ということについては、国の狙いとしては、障害福祉年金と合わせて自立した生活が送れる程度に収入を得てもらうという狙いがあるように思います。

 つまり、年金と合わせてざっくり月額100,000万円程度で生活をするというイメージがあるのではないかと思うのです。(グループホーム入居の場合)

 ここが、大きなポイントだと思います。つまり、就労継続支援B型は、生活介護とは異なり、『工賃を得ていく』ことが前提で、事業所は年金の補填として、『その工賃の向上を求められている』ということになります。

 最近では、利用希望の本人やその家族から、工賃の額を尋ねられることが多くなったように思います。それだけ、就労継続支援B型に求めるものとして、『工賃の額』があるのだと実感します。

 それでは、工賃はどのようにして生み出されているのでしょうか?

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工賃を支給するまで

 工賃は、作業をしてその報酬が反映されます。作業内容は各事業所で異なるでしょう。これは、単純に作業で得たものを利用者に工賃として支給せねばならないので、とにかく作業収入を得なければなりません

 さらに、作業収入は職員に還元することも禁じられています。必要経費を差し引いた全額を、利用者に支給しなれければなりません。これは、あまり前と言えば当たり前ですが、少し頭の片隅に置いておいてください。

 さて、作業のイメージをしてみましょう。例えば軽作業…利用者が物品を仕分け、箱に入れ、職員が数を数え…ある利用者は職員と確認しながらやる場合もあります。当然納期がありますから、納期に合わせるため職員が時間外にやらなければならないこともあるでしょう。

 結論から言うと、先に述べた最低月額支給の3,000円、これを得るだけでも相当大変なのです。割合として、職員の手によるものがなければ収入として難しい場合もあるでしょう。その上で工賃向上を求められるわけですから、利用者にとっても職員にとってもプレッシャーとなることもあります

 利用者にとっては過度な作業を、職員は利用者支援ではなく作業補助(補助ではなくメインになっているところもあるかもしれません)になってしまう…そんな一面も否めないのではないかと思います。

 そして、この工賃は利用者間で差をつけることが非常に難しい部分でもあります。作業能率や態度で差をつけている事業所もありますが、かなり客観的な尺度がないと成立しないでしょう。

 また、利用者個々の特性により、能率だけが全てではない(○○さんにとっては今のスピードが限界だと思われる場合)とも思います。しかし、それは不公平だという意見もあります。量をこなした分は当然もらうべきだという意見もあり、特に利用者間で問題になってしまうこともあります。

 つまり、差をつけるのも難しく、差をつけないのも少し疑問に感じる…というところだと思います。これは、職員による利用者の評価や抱く感情にも繋がってしまうところですので、慎重に検討しなければなりません。

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工賃向上の先にあるもの

 工賃向上を目指した結果、どのようなことが起こってきたでしょうか。以下に整理していきます

1 より作業に馴染む利用者を求めるようになった

 特に特別支援学校の卒業生には、作業効率や能力が求められることになっていると思います。利用者が選ぶのではなく、施設が利用者を選ぶということになり、個人的にはやや歪なように感じます

 では、なぜ作業に馴染む利用者を求めるようになったのかというと、工賃を得るために、職員の負担が重たくならないようにするためです。

 利用者の作業能力が高いほど、職員の作業負担は少なくなりますし、そもそも先に述べたように職員に対しては作業の工賃は支給されない(当たり前ですが)ので、職員としては作業を一生懸命やる理由がないのです。

※利用者の工賃アップに取り組み、それが自らの評価になるという考えや、加算を取って自らの給与を上げていくという視点もありますが、日々の作業に追われると『なぜ利用者の工賃を上げるために自分が作業をしているのか?』という疑問を持つこともあり得ると思います。

※就Bの職員の中には、『自分は作業員ではないのに…』と思っている人もいるのではないかと思います。作業に伴う利用者支援がしたいのに、実際やっていることは作業補助、そんな現実もあると想像します。

 また、就労系サービスは訓練等給付というものが利用者に支給され、事業所の報酬として支払われますが、これは就労継続支援B型においては、どんな利用者であっても一律同じ金額です。つまり、どの利用者を受け入れても、事業所に入る報酬は同じなのです。

 それであれば、なるべく作業に馴染む利用者を入れたい…そんな風に思ってしまう事業所もあるかもしれません。


2 利用者の評価が、作業中心になってしまった

 わかってはいるものの、目の前の作業に取り組む必要のある就B事業所ですと、利用者の評価が作業へ取り組む態度や能率になってしまいがちです。

 工賃を得なければならないのですから当然といえば当然ですが、そうではない評価があってもいいのではないでしょうか。これは、工賃向上を求めた弊害だと私は思います。※ここでの評価とは、その利用者のいいところを探すという視点で用いています。

 そして、『1』で述べた報酬が同じ額であるということも、利用者への評価の在り方に偏りを見せている遠因になっていると思います。


3 加算を得るために工賃向上を掲げる事業所が出てきた

 工賃向上を掲げ、それを実施することで得られる報酬があります。これを狙って、計画的に工賃アップをはかる事業所もあるでしょう。これはいいことでもありますし、国の狙い通りでもあります。

 しかし、利用者に過度な負担、または職員にも負担になるという一面もあり、各事業所の手腕とバランスが問われる部分でもあります。事業所レベルではなく、経営会社が工賃アップを事業所に求める場合もあります。

 工賃が上がることで、利用者の満足度も上がり、通所希望者も増えてくるという目測も経つからです。しかし、これもバランスを欠くと何かを犠牲にしてしまうことになるでしょう。

 上記のように、工賃にまつわる問題も多々あるという現実があります。工賃アップは非常に良い取組みなのですが、通所するにあたっての一番の希望はどこなのか…利用する側も、提供する側も見失わないようにしたいと思います。 

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就Bの将来について

 私は、就労系の施設であっても生活介護などの介護面を重視する施設であっても、社会に繋がる活動が大事だと思っています。

 そして、就Bの存在意義としては、工賃を多く得ることではなく、あくまで『就労に結びつける活動』であるべきだと思います。

 もちろん、福祉的就労という一面を担っている部分もありますから、『就職』だけが目標ではありません。社会に繋がる活動、そして利用者が社会の中で生きていることを知る場が、就B事業所の役割ではないかと思います。

 そのような意味合いから考えると、将来的には生活介護と就労継続支援B型は大きく差がなくなるのではないかと思います。

 生活介護であっても、社会に繋がる活動をすることは変わりがありません。工賃の縛り(3,000円以上・工賃向上)がないから、伸び伸びと利用者に合わせた作業をしている事業所もあります。

 生き生きと働いている利用者の顔を見ると、『就Bも生活介護も関係ないんだ』と改めて認識します。

 過重な作業に追われ、職員から複雑な感情を抱かれながら得る高額な工賃は、その利用者さんの価値となっているでしょうか

 制度に対しても、工賃や年金との関連に関しても、そして私たちの考え方も、もう一度振り返ってみたいところです。

 生活介護事業所と就労B型について書いた以下の記事も参考にしてみてください。

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最後に

 最後に、これから就労継続支援B型事業所を検討している本人、家族に対して書きます。

 事業所選びに迷ったら、以下のことを聞いてみてください。

・事業所の作業は、職員がどれくらいやっているか
(このまま聞くと角が立ちそうなので、上手く聞いてみてください)

・工賃は、利用者によって差はあるのか

 あと、WAM-NET(ワムネット)にある『障害福祉サービス検索』を用いて、工賃や工賃向上計画の有無について調べてみると、事業所の工賃や作業に対しての取り組みが少し把握できると思います。

 どの程度の作業を求められるか、把握することで見えてくることもあると思います。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

(あっ、先を越された…)ありがとうございました!!

支援力をつける人財
ケニー

福祉事業所にて、療育、生活支援、余暇支援など直接支援や、相談支援専門員など相談職の経験を積み、現在も福祉に携わっています。その過程で2校の通信専門学校へ通い、福祉の資格取得もしてきました。仕事と家庭生活の両立を目指しています。

また、複数の法人立ち上げの経験から、福祉職としての働き方や組織作りにも積極的に取り組んでいます。

ブログでは、資格取得の道のりや勉強のノウハウ、そして福祉職として働いていくためのマインドを発信しています!
勉強のちょっとした小技や役に立つこと、その他実際に私が体験したことなどをお伝えしていきます。

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コメント

  1. きっつい就継BだとAに行ったらいいのにと思う時あります。僕が働いていたBは人の出入りが激しすぎて「見捨てる」ことがサビ管の方針になってしまっていて悲しかったです。サビ管も辞めて自分でグループホームと就継Bを運営しています。

    • ケニー ケニー より:

      コメントありがとうございます!そうですね、作業ばかりを求められるBなら、いっそ(地域に合ったところがあれば)A型に移行するのも手ですね。出入りの多いB型も一部あることを認識しています。利用者さんは地域の事業所で循環しているような、変な構図になっているようにも感じます。

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