障害児・者の支援と敬称について考える ~研修編~

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支援力をつける人財

はじめに

 今回は、以前ブログで書いた『敬称についての記事』をご覧になった方から依頼を受け、オンラインで研修をおこなったのでその様子を記していきます。

 ※依頼者の方には許可を得て、最後にコメントをいただいております。

 まずは、その記事をご覧いただければと思います。

 さて、研修とはいっても、今回の研修は『事業所で話すきっかけのひとつ』として、その機会を提供するという意味合いでおこないました。したがいまして、何か答えを明示するのではなく、この研修をきっかけに、事業所でいろいろな意見や議論が起こればいいなと思っています。その中から、その事業所に適したスタイルや考え方、支援方法が見いだされると思います。

 先日、私のところにこんな依頼が来ました。

敬称についての記事を見ました。当方、放課後等デイサービスで児童発達管理責任者をやっている者です。うちのデイは、家庭的なサービスをしようというモットーで立ち上げたものですが、スタッフの言葉遣いが良いとは言えず、個人的に悩んでいました。愛称などはまだ分かるのですが、例えばレクをやっていると、スタッフがふざけて利用児のことを「お前」と呼んでしまう場面もあります。この記事をスタッフに紹介したいと思っていますが、もし可能なら、研修としてお話をしていただくことは可能でしょうか

 最初の連絡をいただき、その後何度かやりとりをさせてもらい、オンラインでその事業所の職員さんたちと話すということになりました。以下、どのような研修をおこなったか、その報告です。

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「敬称」に関する研修内容について

 まずは、簡単なゲームをおこないました。そのゲームは、仮名「やまだ あいこ」さんが、様々な場所でどのように呼ばれているか、参加者全員が一致したらミッションクリアとするものです。人数が多かったら、〇〇人以上が一致したらクリア、としてもいいですね。

 少し操作することになってしまいますが、一人だけ違う答えだと罰ゲームとしても面白いかもしれません。ここでは、突飛な答えを言うゲームではなく、一般的にその場でどう呼ばれるか、イメージするのが目的だからです。

例えば…

名前 やまだ あいこ

①病院に行きました。病院の受付では、どのように呼ばれるでしょうか?

せーので、書いた紙を見せてもらいます。

参加者の答え

参加者Aさん…やまださん
参加者Bさん…やまださん
参加者Cさん…やまだあいこさん

ちょっと惜しかったですね!

この調子で、続けていきます。

②学校で授業を受けています。先生にはどのように呼ばれるでしょうか?

参加者の答え

参加者Aさん…やまださん
参加者Bさん…やまださん
参加者Cさん…あいこさん

③一番仲の良い友だちと一緒です。その友だちからは、どのように呼ばれるでしょうか?

参加者の答え

参加者Aさん…あーちゃん
参加者Bさん…あいこ
参加者Cさん…やまだ

④少し仲の良い友だちと一緒です。その友だちからは、どのように呼ばれるでしょうか?

参加者の答え

参加者Aさん…あいこちゃん
参加者Bさん…あっこちゃん
参加者Cさん…あいこちゃん

⑤家族に、お兄さんがいます。どのように呼ばれるでしょうか?

参加者の答え

参加者Aさん…あいこ
参加者Bさん…あいこ
参加者Cさん…あーちん

⑥会社に勤めています。同僚にはどのように呼ばれるでしょうか?

参加者の答え

参加者Aさん…やまださん
参加者Bさん…やまださん
参加者Cさん…あいこさん

⑦車を買いに来ました、車屋さんからは、どのように呼ばれるでしょうか?

参加者の答え

参加者Aさん…やまださま
参加者Bさん…やまださま
参加者Cさん…やまださま

⑧家族に、父親がいます。父親からは、どのように呼ばれるでしょうか?

参加者の答え

参加者Aさん…あいこ
参加者Bさん…あいこ
参加者Cさん…あいこ

⑨スーパーへ買物に行きました。店員さんからはどのように呼ばれるでしょうか。

参加者の答え

参加者Aさん…お客さま
参加者Bさん…お客さま
参加者Cさん…お客さま

⑩非常に恨まれている相手がいます。その人から怒鳴られる時、どう呼ばれますか?

参加者の答え

参加者Aさん…おまえ
参加者Bさん…てめえ
参加者Cさん…あんた

※これは、おまけの問題でしたが、ニュアンスは一致してますね。

 そのゲームの後に、放課後等デイサービス(またはその対象の施設の役割)の役割についてお話ししました。

ポイント

・放課後等デイサービスは児童の療育というサービスを提供する福祉施設
・学校でも家庭でもなく、障害のある児童と社会を繋げる役割があること
・効果的な療育をするためには、利用者との距離感、適切な関係性が必要なこと

 次に、職員は利用者にとってどんな人なのか、意見を出してもらいました。

参加者の答え

参加者Aさん…家族ではないけど、先生でもない、気軽に話せる大人
参加者Bさん…みんなのお手本になるような人
参加者Cさん…社会に繋がるきっかけになる人

ざっくりな質問でしたが、いい感じで答えてくれました。

 ここまでで、放課後等デイサービスの役割や、職員としての在り方、そして利用者との関わり方がぼんやりと理解できたことと思います。

 最後に、冒頭のゲームの、『名前を呼ばれた場所』を以下の5つに分類しました。

①家族関係
→父親や、お兄さんからどう呼ばれているか

②友だち関係
→親しさも加味して、友だちにはどう呼ばれているか

③学校関係
→主に先生からどのように呼ばれているか

④サービス関係
→お店など、自分がサービスを受けている場合にどのように呼ばれているか

⑤仕事関係
→同僚にはどんな風に呼ばれているか

仕分けたら、放課後等デイサービスはどこに一番近いのか考えてもらいました。

参加者の答え

参加者Aさん…③と④の間くらい
参加者Bさん…③に近いけど、②の要素もある
参加者Cさん…③が一番近いけど、少ししっくりこない

 つまり、家族でもなく、友だちでもなく、療育をおこなう施設としての立ち位置は、概ね学校とサービス関係を半分にしたものであることが理解できました。

 それに、この事業所の場合ですと「家庭的なサービス」というものが加味され、『②友だち関係の要素』をどう支援に落とし込むかということがポイントになりそうだと感じました。

 これで、研修は終了としました。

 結論は出さず、あとはその事業所でいろんな議論が起きて、よりよい支援に繋がればいいなと思っています。

依頼者からいただいたコメント

 今回はありがとうございました。いろんな立場からの呼び名を考えることがきっかけとなり、それに放課後等デイサービスの在り方を組み合わせ、なおかつその事業所のカラーを落とし込むことの必要性を感じました。

 このお話をきっかけに、利用者との距離感について考えてみたいと思いました。

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最後に

 最後に、冒頭のゲームで仕分けた場所に関して、私なりのコメントを付け加えておきます。今回は放課後等デイサービスに関してでしたが、他の障害福祉施設に読み替えても意味合いは通じると思います。

①家族関係

 放課後等デイサービスとして利用者に関わるときに、『家族が子どもに関わるように接する』ことは、効果的な療育が期待できないと考えます。家庭での療育と、外部の療育を組合せることが大事で、デイはその外部、つまりは家庭外の療育を担っているものです。これは、社会に繋がっているという視点も含まれます。

 また、利用者の家と外の様子は異なるものです。異なるからこそ、我々も意識して関わらなければなりません。私は、家庭とデイで利用者の様子が同じであることは、いい面と悪い面があると思っています。

②友だち関係

 友だち関係は、それはそれで必要な関係です。さて、利用者と職員は友だち同士かと言ったら、それはまず違います。このような放課後等デイサービスにおいて、友だち同士の関係を求めるなら利用者同士の仲立ちをするような支援を通じ、利用者同士が良い友だち関係を構築することが先決かと思います。したがって、職員が友だちになる必要はないかと思います。

③学校関係

 教育という面がありますが、療育とはやや毛色が異なる部分です。そして、福祉はサービスという部分もあるので、それをどう支援に反映させるかがポイントです。

 なお、個人的な考えですが、放課後等デイサービスの職員は先生とは少し違うのかなと思っています。もちろん、「先生」と利用者に呼んでもらうことで、その提供している療育が効果的になる一面もあると思います。それは否定できないのですが、学校でもなく、家庭でもなく、療育を通じてもう一つの居場所として成り立っているデイサービスにおいては、「先生」に対する「生徒」という関係にはならないと思っています。

④サービス関係

 品物やサービスを提供し、その対価を受け取るものです。個人的には、これが一番福祉サービスに近いと思っています。サービスの対価として金銭の報酬を得る、非常にわかりやすい構図です。

 しかし、利用者のことを「お客さま」と呼んだり、「○○さま」と呼ぶことは(ほどんど)ありません。そこは、放課後等デイサービスであれば、「児童にふさわしい呼び方」という要素が含まれ、かつ家庭や友人関係でもない、社会に繋がる視点を含むことが必要だと思います。

⑤仕事関係

 これは、同じ目的で同じ立場の人をどう呼ぶかという問題です。そして、これはこの中で最も社会を感じるような関係かと思います。

 そして、今回のような「何か気付きをもってもらう」ことが目的の研修の場合、「自分が職場の人のことをどう呼んでいるか」が気づきのヒントとなることもあります。まさか、愛称や呼び捨てで呼ぶ人はいないと思うので、それと福祉サービスの差を考えるきっかけになるかと思うのです。

支援力をつける人財
ケニー

福祉事業所にて、療育、生活支援、余暇支援など直接支援や、相談支援専門員など相談職の経験を積み、現在も福祉に携わっています。その過程で2校の通信専門学校へ通い、福祉の資格取得もしてきました。仕事と家庭生活の両立を目指しています。

また、複数の法人立ち上げの経験から、福祉職としての働き方や組織作りにも積極的に取り組んでいます。

ブログでは、資格取得の道のりや勉強のノウハウ、そして福祉職として働いていくためのマインドを発信しています!
勉強のちょっとした小技や役に立つこと、その他実際に私が体験したことなどをお伝えしていきます。

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